夢現の虚想

2.ネオティターンズ 「ドゴスギア」――― ティターンズ宇宙艦隊の中核とも言える超弩級戦艦。 現在は軍の中枢たるバスク=オム大佐自らが指揮していた。 「ふん・・エゥーゴ等と下らん組織を・・・ グラント少佐、艦隊を率いてラビアンローズを落とせ!」 「・・・御意。」 下士官に命ずると、そのまま不機嫌そうに自室に戻っていった。 「少佐、バスク司令は何と?」 「艦隊を率いてラビアンローズを抑えろ・・とな。」 現在、エゥーゴは宇宙での拠点をラビアンローズとサイド3に持っていた。 ラビアンローズはあくまで民間の宇宙ドックに過ぎないが、 その有用性は一個師団としても足りない程重要だった。 だが・・・ 「・・・・少佐は本当に攻める気なのですか?」 グラントの率いている艦隊は、 新鋭艦のアレキサンドリア級「フリート」を中心として、 サラミス改級「リディア」、 同型艦に「レイズ」、「バストリア」、「リアズ」で構成されている。 中・小規模の基地を攻めるには十分な戦力だったが、 明らかに敵本拠地とも言える場を攻めるには少なすぎた。 「・・・明日だ、明日、全てが変わる。」 「・・・は。」 艦隊はバスクの命令どおり、ゼダンからラビアンローズへと進んでいった。 「・・・グラントの艦隊はどうしている?」 「は、グラント少佐の艦隊は現在、 半数を直接ラビアンローズに。 もう半数は地球上空を通り、 サイド2からラビアンローズへ攻める・・模様。」 翌日のことだった。 バスクは、グラントが命令どおりに行動しているか、 もししていないようならそれを口実に処刑・・というつもりだった。 バスク自身も、この作戦が無謀としか言いようの無い事はわかっていた。 「ふん・・命令どおりにしては居るようだな。」 グラントは兵士、そして指揮官として優秀な士官であったのだが、 先日、バスクの「邪魔者はどんな手を使ってでも排除せよ」との命令に意見をした。 バスクはこれに怒っていた。 自分はティターンズなのだ。 ティターンズの象徴ともいえる自分が、 下士官如きに意見されたのだ、 だからグラントは処刑することにした。 だが、意味もなく殺したのでは周りも五月蝿い。 グラントを慕う兵士も居ない訳ではない。 今は、エゥーゴを倒さなければならないのだ。 アースノイドの占有を邪魔する不届きな反乱分子達を・・ そこで考えたのがこの作戦だった。 グラントの攻撃によってラビアンローズは多少なりとも被害を受けるだろう。 そして、その後にドゴスギア率いる本体で攻撃するのだ。 もちろん、グラントは死ぬことになるが、 名誉の死としてたたえられはするがバスク自身は何も困らない。 そして、エゥーゴを倒せるのだ。 もしグラントがこの作戦を拒んだとすれば、 その時は反乱分子として殺害も出来る。 何もかも完璧な殺害計画だった。 「バスク閣下、お話があります。」 ブリッジ内に、女性士官が入ってきた。 「なんだ貴様は、誰に許可を得てここに来た!」 不機嫌極まりない声で追い立てる。 「・・私は技術部門担当のレィナ中尉であります。」 「技術屋ごときが・・あいさつをすればいいというものではないわ! さっさと出て行かねば独房行きだぞ!!」 レィナの何も恐れの無い言葉で、バスクの怒りに火が付いた。 しかし、依然レィナは微笑を続けていた。 「閣下?やはり貴方はそういう人間なのですね・・ 貴方が居る以上はティターンズもろくな道を進まないわ・・」 かちゃ レィナの手にはハンドガンが握られていた。 「貴様・・・・」 「全員動くな! ・・・バスク大佐、貴方には私と一緒に来ていただくわ。」 どすっ 「ぐ・・」 頭を軽く殴りつけ、腕を取った。 「さぁ・・行きましょうか・・大佐」 レィナは悠々とバスクを連れ、MSデッキへと進む―― 「ワシをどうするつもりだ・・ 貴様、このままで済むとでも思っているのか!?」 「五月蝿いわね・・貴方はただの人質です。 私がMSに乗るまでのね。」 そうこういう間にデッキについていた。 「ここまでね・・さて、バスク大佐? 貴方には悪いですけど、邪魔されると厄介なので・・」 ばすっ 「ぐ・・ぉ・・」 「今のが私の人生で最後の敵に対する情けよ。 これから私は・・・悪鬼になるわ。」 既に意識を失っているバスクを残し、用意されていたMSに乗った。 「貴様っ、そこで何をやっている!止まれ!」 「バスク閣下、大丈夫でありますか!?」 「反乱分子はデッキにいるぞ!MSで脱出させるなぁ!」 色々な声が飛び交う。 どれもが指揮系統を乱され焦っている兵士達の声。 冷静な判断のできる兵士は、この間には居ないようだった。 居るとすればここに一人――― 「ハッチを開けなさい。さもなければ艦内で撃ちます!」 ぐぉぉぉ・・・ 脅しが効いたのか、ハッチはすぐに開いた。 脱出までは・・容易にはいかないらしいが。 「予測していたけれど・・また結構な数ね・・」 ハッチの外には銃口をこちらに向けたMS・・ バーザムやマラサイが30数機・・ 既に臨戦態勢に入っていたようだった。 ハッチからカタパルトを使わずに出た。 「レィナ中尉に告ぐ、今すぐ投降せよ、レィナ中尉に告ぐ。 抵抗しても無駄だ、諦めて投降せよ。 潔い行為は健やかな最後に繋がる。 繰り返し・・」 通信は隊長機と思われる青黒いマラサイかららしい。 「そういう事は勝ってから言いなさい・・私はまだ負けていないわ。」 「・・・・全軍、ただちに反乱分子を抑えろ。 抵抗するなら落としてもかまわん。」 通信が途切れると同時に銃口からはビームが発せられる。 回避する事など不可能な程の無数の粒子砲。 しかし・・それらのほとんどは通用せず、はじかれ、消えた。 「Iフィールドだと・・小癪な!」 「おぃ・・あの機体・・確かパプテマス大尉のジオとか言うのじゃ・・」 兵達の焦る声がおかしかった。 「うふふ・・私の方がオリジナルよ・・ジオダンテで行きます!」 敵陣の只中に突撃すると、 全身についている火器を駆使し、数秒で包囲網の一角を崩した。 強力な兵器である事は、その機動性だけでもわかっていた。 「隙ありぃっ!」 「落ちろぉぉぉぉ」 何機かがこちらの背後に回り、ランチャー砲を撃とうとする。 直撃を受けたところで被害は微々たる物だが、 後ろにはエネルギーパックがついている。 これを破壊されるのは少し辛かった。 どぅん・・ メガ粒子砲が掠め、背後のMS達を消し去った。 「リィナ様、ご無事で・・」 「グラント・・・助かったわ。」 ラビアンローズに向かわせたのは自分の艦隊だった。 だが、グラント自身はMSで別行動をしていた。 「グラント、貴様・・」 突然通信にバスクの声が聞こえた。 気を取り戻したのだろう。 こうなると指揮系統も若干はまともに戻るはずだ。 早めに退出しなければならない。 「バスク、私は貴様の様な外道の為にティターンズに属していた訳ではない。 ・・・というより、利用させてもらったという事かな。」 半ば自嘲気味に言い、レィナのMSを援護しながら包囲網を突破していく。 「グラント少佐、どういう事でありますか!? 我々には理解でき・・うわぁぁぁぁ」 ジャミトフをして優秀と言わしめたグラントの反乱に、 兵士達は見事に錯乱した。 「我々に付きたい物は今すぐ武装解除し戦闘域から脱しろ! そうしないものは私が潰す!」 叫び、そして撃つ。 察したのか、数名の兵士が包囲網を解除し逃走を図った。 「リィナ様。後は私にお任せを。」 「解った・・頼むぞグラント。」 レィナの乗る血の色をした機体は、 MAを思わせるほどの速度で戦線離脱していった。 「さて、後は私だな・・」 できる限り敵の部隊は減らさなければ・・ 追撃隊も送れないほど疲弊させなければならなかった。 「艦隊を潰せば少しは好転するか・・」 グラントの駆るカスタメイド・ガルバルディの性能はかなり高い。 自分専用のカスタマイズ機を持つ事が出来るほどグラントの能力は認められている。 だからこそ、MSを使用してでの限界能力は並の兵士では歯が立たないはずである。 「むぅぅ・・・おのれっ!」 「バスク・・貴様には悪いがここで消えてもらう。」 銃口をドゴスギアのブリッジに向ける。 発射しようとした刹那―― 「そこまでだ、俗物っ!」 どぅんっ 大口径のビームがシールドもろとも右腕を破壊した。 「・・・シロッコかっ!」 「グラント・・貴様、とうとう本性を現したな・・ 閣下の前で貴様を成敗する!」 黄色いMSから、その声は聞こえた。 「貴様の方はまだ本性を現していないようだな・・ そのMSは我が王国から奪ったプランか!」 「俗物どもに展示させているくらいならと私が代わりに使ってやっているまでだ!」 「ふん・・所詮天才等といってもその程度の才か・・ まだリィナ様の方が優秀よの・・」 「黙れぞくぶつっ!」 口論をしつつも、MS達は互いに相手の急所に直撃するコースをビームを撃つ。 しかし、どちらもそれを予測し、互いに外れる。 若干、反応速度でシロッコの方が有利だった。 「どうした英雄、貴様はこの程度か、 やはり天才である私を相手にしては、少し無理があったようだな!」 「ち・・これがニュータイプか・・しかし、死ぬ訳にはいかんなぁ・・」 ライフルのビームは撃ち尽くした。 残るは・・ 光学式のフラッシュグレネードを投げつけた。 もちろん当たってもダメージ一つ与えられないが、視覚はさえぎれた。 「ここまで時間が稼げれば問題無いっ、さらばだっ!」 高機動ブーストで戦域の脱出を図る。 すぐに・・ドゴスギアが・・ そして、ゼダンの要塞が小さくなっていった。 ジオダンテ=レイナ―― 小コロニー国家「レクシア」国王マルレッカ=レクシィドの娘。 だが、レクシアは独立宣言後、ティターンズによって滅亡。 滅ぼされる理由は「ティターンズの平和維持姿勢を妨害したため」であった。 レィナは崩壊の前日、 事態を察した元老「グラント」と共に脱出。 国を滅ぼした時の指揮官はバスク=オム。 そして攻撃直前、一人の士官がレクシアに潜入する。 パプティマス=シロッコ――― いまやティターンズの幹部とも言える存在である。 彼は混乱に乗じて、レクシアから幾多もの技術プランを奪取した。 その中でも「ジ・オダンテ」の開発プランは非常に優秀だった。 ジ・オダンテは本来、レクシアの象徴とする・・ それだけの存在であった。 コロニーでの独立国家設立を勝ち取るために、MSとしての性能も完成度として求めた。 その結果、現存するMSの中でもかなり優秀な部類の機体となっていた。 だが・・・ レクシアはそれを活用しようとせず、その名だけで独立を勝ち取ろうとした。 平和主義国家だった。 ティターンズはそれを容赦なく滅ぼし、 王族含め要人達は皆殺害、 ジ・オダンテの一号機も破壊され、プランも闇に葬られた・・ はずだったのだが、シロッコはこれを事前に入手、 コピーし、手元に予備の設計図を持った。 そして、それが元で作られたのがジ・Oであり、 重MSのパラス・アテネである。 逃げ仰せ、隠れ生き延びていたレィナは、深く復讐を誓った。 ティターンズに潜入し、機が熟したと同時にティターンズを滅亡させる――― それがレィナの野望であり、 全ての生きがいだった。 そしてこの日・・ ジオダンテ=レィナにより一つの軍隊ができた。 「リィナ様、我々は何という組織なのでしょうか?」 ふと、グラントにこんな間の抜けたような事を聞かれた。 ゼダンから新たについて来た部下に聞かれ、困ったのだという。 今までは全てばらばらに活動していたため、組織としては名前が無かった。 だが、これからは違う。 一つの組織として、名を持たなければならなかった。 「そうだな・・我々はティターンズを滅ぼす。 だが、それまではティターンズ将校が中心の反乱軍だ。 だから敢えてこう呼ぼう。『ネオティターンズ』と・・」 この日から、『ティターンズが対エゥーゴ』という情勢が大きく崩れ、 それが元になりキセラの結成は成されていった。 (続く)

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