みずそら(後)

オチのつかないゲームばかり続ける事1時間。 雪希ちゃんはまだ来ない。 「出来たよ〜」 とか言ってくれればすぐにでも行くのに、 それが無いから、ずっと先輩と2人っきり。 さっき見てしまったえちぃ本の所為で、ますます居心地が悪かった。 先輩は気にしてないと思ってるみたいだけれど、 私はさっきから変な想像ばかりが頭に浮かぶ。 私は下級生で、 先輩の持っていたえちぃ本も下級生モノで、 だから先輩はそういう趣味があって、 私もそういう範囲入っていたりしたらどうしよう・・ そんな、馬鹿みたいな想像が浮かんでは消えて、また浮かぶ。 手先は全然落ち着いてなくて、 出るはずの必殺技も出せず、 かわせるはずの攻撃もかわせず、 ただぼろぼろとやられていく。 ・・・先輩の攻めも甘かった。 ゲームの話をしていた時は、かなり自信があったみたいだったのに、 でも、私と同じでまるで初心者みたいだった。 ―――ワタシトオナジ・・・?――― 「どうしたんだ進藤?」 そう言われて、ゲームが止まっていたのに気がついた。 コントローラーが手元から落ちていた。 ゲームの進行なんて、ほとんど見ていなかった。 何処も、何も。 見る事ができない位、混乱していて、 自分で「落ち着かなくちゃ」って思っても、 その所為で余計に焦ってしまう。 そんな悪循環。 「進藤?」 先輩が顔を覗き込んでくる。 「ひゃっ、ひゃ、ひゃいっ」 いつもの私からは全然想像できないような声だった。 そばに居られて、恥ずかしがってる声なんて、 そんなの、私の声じゃない・・・ 「あ、いや、体調悪いとか?大丈夫か?」 「は、はいっ、大丈夫です。なんともないです。 全然完璧に大丈夫ですからっ。気にしないで下さいっ。」 「あ、ああ・・」 何を言ってるのか解らない。 自分で馬鹿みたいな事言ってしまったと思った。 甘えてれば、ひょっとしたら良い感じの雰囲気になったりして、 とか。 ―――何を考えているんだろう。 なんでそんな事思うんだろう。 どうして、私はそんな、先輩の事なんてセンパイとしか―― 「ご飯できたよ〜・・・ってあれ?」 突然、雪希ちゃんが入ってきた。 「あ、ああ、できたか・・・」 「あは、ちょっとお邪魔だったかな?」 「そ、そんな事ないよ。 私、お腹減っちゃったから早く雪希ちゃんの手料理食べたかったんだ〜」 「でも、2人で何やってたの? 電気もつけないでテレビに向かって・・」 「ゲームだよ。ゲーム。な?」 「え、ええ、ゲーム。そうそう、格ゲーやってたの。」 今更思い出した。 私達はゲームをやってたんだ・・・て。 別の事を強く考えてしまったから、 その事をすっかり疎かにしてしまった 「へぇ・・」 何かひっかかる笑顔で雪希ちゃん。 「それじゃ、下まで降りてきてね。」 とだけ言って部屋を出てしまった。 「雪希ちゃん、何か変な事考えてたりして。」 「へ、変なことって何だ?」 それはもちろん・・・ 「私と先輩くっつけようとしてたり・・」 「するかっ!」 ・・・速攻で否定しなくても。 「それよりも、飯だ。飯。ご飯が俺を待っている〜♪」 先輩、音程外れてますよ。 とか言ったらまたチョップされそうなので我慢しよう・・ ・・・言いたい事を我慢するなんて、今まで無かったなぁ。 「わぁ・・豪華ぁっ。」 「あはは、進藤さんもお兄ちゃんもたくさん食べてね♪」 「いただきまーす」 「お・・この卵焼きはグレートデェリシャスって感じだな。」 「あはは、何ですかぁそれ?」 「それだけ美味いんだ。」 「先輩って、料理上手い女の子だったらすぐに尻尾振ってついてっちゃいそう。」 なんて、 『いくら俺でもそんな単純じゃないぞ』 とか怒られちゃうかな・・ 「そうだな、やっぱ彼女にするんなら料理上手じゃなきゃなぁ・・」 ・・・! 「そ、そうなんですか、へぇ・・」 因みに私は料理が下手。 「で、でもお兄ちゃん、 お料理は腕よりも愛情がこもってるかどうかだよ。」 雪希ちゃんがフォローして・・くれた・・・? 「あはは。 でも先輩、あんまり選べる立場でも無いんじゃないですか〜?」 「う・・それは痛いな・・」 「この卵焼き美味しい・・ 雪希ちゃん、先輩じゃなく私の妹になって!!」 「進藤さん、それじゃ双子だよ〜」 「うふふ、あはは・・・」 笑ってごまかして、なだめて、すかして・・・ 心は、泣きそうで、 顔は精一杯楽しそうにしてなくちゃいけなくて、 それが、とても辛かった。 「あ、進藤さん、お風呂沸いてるからゆっくり温まってね。」 「うん、それじゃ・・・」 ちゃぽん・・ 「はぁぁぁぁぁ・・」 ちょっと熱めの湯船に浸かる。 一日の疲れが抜けて、ぼーっとする。 話す相手も居ない、そんな空間だと、 どんなに嫌でも色んなことが浮かんでしまった。 「先輩は私の事どう思ってるのかなぁ・・」 「先輩は好きな人居るのかなぁ・・」 「先輩は・・・」 「先輩は・・」 「・・・」 浮かんでくるのは、先輩の事ばかり。 こんな事になるのなら、ゲームなんてしなければ良かった・・ なんて、そんな事を思えば思うほど、 そんな事無いって、 そんな風に考えてしまう自分・・・ ―――気がつくと、なんだか、涙が流れてるみたいで――― 暫くして、少し落ち着いて、 その代わりにちょっとのぼせそうになって、早く出ようと思った。 まだ髪は洗ってない。 だから、洗ってから出よう・・ 「あれ・・シャンプー無い・・」 切らしているようだった。 その隣にあった緑っぽい容器の液体・・ 『超トニック』 とか書いてあった。 とりあえず、 「お風呂場にあるもの自由に使っていいからね♪」 って雪希ちゃんも言ってたし、使わせてもらおう・・かな・・ 「あ、あれ・・泡が出ない・・」 手にとって、ジェルを出してみたのに、 全然泡が立たない。 仕方なくて、沢山出してみた。 「う・・・」 石鹸のようなにおいにつつまれた。 「ま、まぁ、ちゃんと毎日洗わなきゃ駄目だし・・・?」 さっきとは別の意味で泣きそうになりながら髪を洗った。 なんだかやけにしゃきっとして、 髪がごわごわして、 ・・・頭が寒くなった。 「ちょ、ちょっと先輩っ!どうしてくれるんですかっ!」 「のわっ、し、進藤、お前、入る時位ノックをだな・・」 先輩はゲームをやっていた。 突然入られて少し驚いてるみたいだった。 「あのシャンプー、先輩のでしょ!? おかげで私の髪の毛、 ごわごわしてて硬くなりそうだの変に頭が寒くなるだの・・・」 こんな事になるのなら水で洗うだけで我慢するんだった・・ 「ああっ!お前俺の超トニックを使ったのかっ」 「それしか無かったんですぅっ!仕方ないじゃないですか・・」 というか好んであんなもの使いたくない・・ 「雪希のは・・?」 「切れてました・・リンスもシャンプーも。」 「むぅぅ・・・」 「どうしてくれるんですっ!?責任とって下さいよねっ」 「どういう責任だよ・・」 ばんっ 「お兄ちゃんっ!」 突然雪希ちゃんが入ってくる。 「ゆ、雪希、丁度良い所に、お前も・・」 「駄目でしょお兄ちゃん、男なんだからしっかりと責任取るのっ!」 「へ・・?」 「全く・・ やけに最近進藤さんと仲良いと思ったら、そういう事だったのね。 だったらそうとちゃんと相談してくれれば私も力に・・」 「あの〜・・雪希ちゃん、何か勘違いを・・?」 「あ、進藤さん、大丈夫だよ、ちゃんとお兄ちゃんには男としての責任は取らせるからっ。」 ―――前々から物思いが激しい子だとは思っていたけれど。 「いや、だからだな・・雪希・・ 「お兄ちゃん、女の子妊娠させておいてそれは無いでしょ! ほら責任取るっ!」 「あの・・雪希ちゃん。誰が妊娠を・・?」 「え?だって進藤さんが責任責任って言ってたから・・・」 なんというか、普段大人しいのになんでここまで激しく思い込めるんだろう。 「・・・・違うの?」 「全然、これ以上無いほどに、違う。」 「あ、そ、そうなんだ・・あはは・・あは・・」 笑顔が引きつっていた。 まぁあれだけ思い込んでたんだから恥ずかしくなるのは当然―― 「失礼しましたぁっ」 ばんっ 雪希ちゃんは逃げてしまった。 「・・・何だったんでしょうか?」 「さぁ・・・」 もう、髪の事で追求する気も起きなかった。 「はぁ・・それでは。」 「ああ、おやすみ。」 「あれ・・」 部屋を出る間際に、何かを見つけた。 「あ・・これ・・メロコアじゃないですかぁっ!? どうしたんですこれ?もしかして先輩・・こういうの好き?」 「えっ?あ、ああ・・まぁ、そうなんだが・・」 「へぇぇぇ・・実は私もこのバンド好きなんですよ。 ファーストアルバムから全部集めてたりしますっ。」 「何っ!?マジか?すげぇ・・」 先輩は尊敬のまなざしをしていた。 「あはは。意外に結構趣味合いますねぇ。私たち。」 「そだな。」 「あ、ちょっとかけて下さいよ。このアルバム、一番好きなんです。」「ん、解った。ちょっと待ってな・・」 がさごそがさごそ 〜!!!♪ 激しい音楽が流れる。 この激しさが良い。 ・・・理解者は少ないけれど。 「はぁ・・やっぱりこの音楽が一番ですねぇ・・」 「実はな・・俺もこの曲が一押しなんだぜ。」 「へぇ・・本当に良く趣味が合いますよねぇ。」 「そだな・・なんなら付き合ってみるか?」 「ええ、良いですよっ・・・ってえぇっ!!!???」 突然の告白で、折角落ち着いたのに、また乱されて、 ぼろぼろと、泣いていた。 「あは・・は、先輩、冗談、好きなんですね・・ぇ・・」 「冗談よりはお前の方が好きかなぁ・・なんて・・」 どくん 体がぶれたような、 頭の中が真っ白になって、訳がわからなくて、 涙は全然止まらなくて、 ただ、激しい音楽の中で、私は先輩に抱きついていた。 泣いた所なんて、見られたくないから――― 「そういえば先輩、なんで私なんですかぁ? 私、そんな料理上手じゃないですよ?」 「知るか。お前が良いと・・・思ったんだよ。 料理なんて・・知らん。」 「あはは、変な理由。」 「それで・・その・・どうなんだよ?」 「え?」 「だから、付き合うのかって・・」 「もちろんオッケーですよっ」 (終)

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