みずそら(前)

「今日も寒いね〜」 「寒いなぁ、ま、そのおかげで目が覚めるんだけどな。」 「あはは・・」 駅を出て少し歩くと、前の方から仲の良さそうなカップルの声。 「雪希ちゃ〜んっ、それから先輩もぉ〜」 居るのに気付いたら即行動。 速攻で接近して 「おっはようございま〜す♪」 「あ、おはよう♪」 「・・・ああ。」 雪希ちゃんはいつも明るくて、先輩はいつも元気が無い。 「あっれ〜?どうしたんですか先輩?元気が無いですよぉ〜?」 「あー・・・朝っぱらからうっさいな・・ もうちょっと静かにしろっ!」 「そ、そんなぁ〜、ひどいですよ〜、 私の何処がうるさいって言うんで・・」 とすっ 「う゛・・う゛・・」 延髄に衝撃が走った。 「さてと、行くか。」 「お、お兄ちゃん、今のはやり過ぎじゃ・・」 (ぷるぷるぷる) 「ほら雪希、今なら進藤を倒せるぞ。」 「た、倒しちゃ駄目だよっ!」 「ほらほら人を指でさすものじゃありません。さっさと行くぞ。」 兄妹の声はどんどん遠ざかっていって・・ 私が気付いた時には影も形も無かった。 「せんぱぁ〜い、ちょっと待ってくださいよぉ〜!」 思いっきり走ってやっと昇降口で先輩の姿を見つけられた。 雪希ちゃんは何故か居なかったけれど。 「随分と回復が早いな。DG細胞でも持ってるんじゃないか?」 「は?何の事ですか? ・・と、そんな事よりも先輩、ひどいじゃないですかぁ。 なんで女の子にあんな暴力振れ・・」 とすっ 「う゛・・う゛・・」 きーんこーんかーん・・ 「急いだ方が良いぞ、予鈴鳴ってるし。」 (ぷるぷるぷる) やった事と言ってる事があべこべだった。 ・・・痛い。 「はぁ・・・」 「あ、進藤さん、さっきは大丈夫だった?」 「頭痛い・・」 「ごめんねお兄ちゃんが・・その、でも、悪い人じゃないんだよ。」 痛む頭を抑えていて、 雪希ちゃんが先輩の代わりに謝る。 そんな事が普通になりそうだった。 「でも、なんで先輩、私の事ばかり叩くのかな・・」 それが解らない。 先輩はうるさいって言うけど、私はうるさくしてるつもりはないし、 むしろそんな事で叩かれるなんて不条理過ぎる。 「うーん・・・愛の鞭とか?」 「それはそれで結構面白いかも。 『先輩にそんな趣味がぁぁぁぁぁ!?』って。」 実際そうだったらひくけど。 「あはは・・でもお兄ちゃん最近ちょっと変だから・・」 「え?変って?」 「な、内緒だよ。」 「ふぅーん・・怪しいなぁ。」 「そ、そんなことないよっ!何でもないっ。」 顔を真っ赤にして言っても説得力が無いし。 「まぁいいけど・・それよりも、お昼どうしよっか。」 「あ、それならお兄ちゃんと一緒に三人で食べない? 今日はちょっとお弁当大目に作ってきちゃって・・」 「え?いいの?それだったらもちOKね。お昼が楽しみぃ〜」 「おい進藤、さっきからうるさいぞっ!廊下に立ってなさいっ!」 ・・・授業中だったのを忘れてました。 はぅぅ・・ きーんこーんかーん・・・ 「はぁ・・やっとお昼休み・・・」 4時間連続のこの拷問もやっと解かれた。 私が何をしたというのかまったくわからないけれど、 授業のたびに『うるさいっ!』とか言われて教室を追い出される。 「ていうか、うるさいのかなぁ・・・私。」 鬱になる。 別に、好きでうるさい訳でもない。 ただ、ちょっと話してるだけのはずなのに、 人よりも声が出てしまう、それだけ。 「あ、あの、進藤さん、大丈夫?」 色々考えて居ると雪希ちゃんが教室から顔を覗かせていた。 「あー・・もう、駄目・・しねる・・」 「あはは・・確かに4時間連続は辛いよね。」 「死ぬほどお腹減ったぁ・・・という訳でお昼にしよ〜」 「あ、うん。じゃあお兄ちゃんの教室行こうね。」 「了解っ。じゃ私も用意するからちょっと待っててね〜♪」 「という訳でお邪魔しま〜っす♪」 「お邪魔しま〜す。」 「げ、今日は進藤も居るのか・・」 お弁当を持って教室に入ると、やぱり先輩は嫌そうな顔をした。 「うわ、ひどいですねぇ。どういう意味ですかぁ?」 ちょっと悔しいから突っかかってみる。 「というかちょっとは遠慮して入れっ。 ここは誰の教室だと思ってるんだっ!」 「そ、そんな怒らなくても良いじゃないですか。 別に先輩のモノでもないんですか・・」 とすっ 「う゛・・う゛・・・」 「お、お兄ちゃん、また・・」 「さて、今の内に飯食うか。」 (ぷるぷるぷる) 「わっ、雪希、その弁当をどうするつもりだっ」 「駄目っ。ちゃんと進藤さんに謝らないとお弁当返さないっ!」 意識が飛んでいる一瞬の間に何かがあったらしく、 先輩と雪希ちゃんがなにやらもめていた。 「あれ・・どうしたの雪希ちゃん?」 「あ、進藤さん、大丈夫?ごめんね・・」 「だぁー、俺の『食事中位は静かに食べよう』作戦がぁっ」 今度は先輩が頭を抱えていた。 「・・・・なるほどぉ。」 なんとなく解った気がした。 「やっぱり私がうるさかったんですね〜。 仕方ないなぁ。今日は私、一人で食べますね。それではぁ〜♪」 まだあけてないお弁当を持って、そのまま教室を出た。 「あっ、進藤さんっ・・」 後ろで雪希ちゃんの声が聞こえて、なのに全く聞こえなかった。 「はぁ・・・」 ため息ばかりが出る。 食事が喉を通らない。 折角お弁当を広げたのに、食べる気も起きなかった。 箸は持っているだけの飾りで、 卵焼きもグラタンも切られるだけの玩具。 ウィンナーなんかは触ってもいなかった。 何故か、ショックだった。 自分がうるさい事位、解ってたのに、 改めて先輩に言われたのが痛かった。 別に、軽口だって解ってたのに、 それが何故か耐えられなかった。 「雪希ちゃん、もうすぐテストだし、一緒に勉強しない? できれば雪希ちゃんの家で。」 今日の分の授業が終わって速攻で雪希ちゃんに話し掛けた。 「えっ?あ、うん・・いいけど、でも・・」 「先輩の事だったら気にしてないって♪ それに、雪希ちゃんの家なら美味しいお茶も出るし♪」 「あ、あはは・・ それじゃ、ちょっとお兄ちゃんに言ってくるから・・」 「うん、昇降口で待ってる。」 手を振りながら雪希ちゃんを見送って、昇降口に向かった。 「お待たせ、じゃ、行こうか。」 「先輩、何て?」 「もちろんOKだよ。ていうか私が断らせないよ。」 雪希ちゃんは満面の笑顔でそう言った。 何か脅してたりして。 「ただいま〜」 「お邪魔しま〜すっ」 「おうおかえり。」 「あ、私ちょっと着替えてくるから・・ (お兄ちゃん、しっかりね!)」 「あ、ああ・・」 ぱたぱたぱた・・ そのまま雪希ちゃんを待つ。 待つ・・ 待つ・・・ 「と、とりあえず部屋案内するぜ。」 「あ、はい。」 「雪希は応接間で勉強するーとか言ってたけど、 なんでこんなとこでやるんだか・・」 「さぁ〜、それは私にも解りませんね〜」 ・・・間。 何も話さず、 何もせず、 ただ二人、ぼーっとしていた。 「ああ、さっきは悪かったな・・その・・やり過ぎた。」 先輩が悪戯したのを怒られた子供みたいに頭を掻きながら照れて謝りだした。 「良いですよ〜、先輩がちゃんと気にしてるのなら。」 「あ、ああ・・そうか・・」 「でも、これからはもうちょっと、手加減してくださいね。 かなり痛いんですから。アレ。」 延髄は結構効いた。 「・・・そだな。」 「・・・・」 「・・・・」 また間が空いた。 「遅いな。」 雪希ちゃんが来ない。 もう先輩に部屋に案内されてから20分位は経っている。 「そうですね・・・雪希ちゃん、どうしたのかな。」 「ん、ちょっと見てくるか・・」 「女の子の着替え覗く気ですかぁ〜?先輩のエッチぃ〜」 「な、何言ってるんだよっ、俺は兄としてだな・・」 先輩は顔を真っ赤にして否定していた。 こういうところを見ていると、兄妹なんだなぁって思う。 顔が似て無くても、そういう所は本当にそっくりだった。 「あはは、冗談ですよ。 でも、ごたごた起こるといけないですし、私が見てきますね。」 「あ、ああ、頼む。」 部屋のドアをノックすると、ばつが悪そうに雪希ちゃんが出てきた。 「雪希ちゃん、どうかしたの?」 「あ、ううん、なんでもないの・・すぐにお部屋の方に行くね。」 そう言って応接間に向かった。 「それじゃ、始めようか。」 「先輩も一緒にやるんですか?」 「う、うん。お兄ちゃんには解らない所とか教えてもらおうかと思って。」 「あ、そうなんだぁ。先輩、当てにしてますよ♪」 「お、おぅ、任せとけ。」 そうして、辛い時間が始まった。 「う、うーん・・」 「進藤さん、ほらここはこうやって・・」 「あ、なるほどぉ〜」 「あ、雪希ちゃん、ここはどうやるんだっけ?」 「えーっと・・ここは・・ちょっと難しいかな・・」 「うーん・・そうかぁ・・」 「あ、こういう時にこそお兄ちゃんっ (良い所見せるチャンスだよっ)」 「へ?あ、ああ、ここだな・・・えーっと・・ちょっと待てよ・・ うーん・・・うーん・・」 先輩は聞く度に考え込んでいた。 「うーん・・そうだ・・!」 「あ、先輩もう良いです。」 先輩が考えている間に私も出来た。 「え・・あ、ああ、そうか・・」 途端に先輩はしょんぼりした。 なんだかちょっと悪かったかなぁ・・ (続く

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