みずそら(中)

「悪いな、ロクに役に立て無くて。」 「いえ、気にしないで下さい。」 帰り際になって先輩が送ってくれる事になった。 「でも、どういう風の吹き回しなんですか? 突然『駅まで送ってくよ』なんて。」 「償いのつもりだとか思っとけ。別に考えは無いんだ。」 「そうですかぁ〜?ならいいんですけど。」 「しっかし・・ 隣町からわざわざなんて、結構大変じゃないのか?」 「ええ、そうですねぇ。 朝は人より早く起きなきゃいけないからちょっと辛いですねぇ。 でもそれだけですよ。」 「そうなのか・・ふぅーん・・」 そんなこんな話している内に駅に着いた。 「な、なんか人が多いな・・いつもこうなのか?」 「そんなこと・・この時間に帰る事ってあんまりないですけど・・でも・・ちょっと多いような・・・」 がやがやがやがや・・ 「ちょ、ちょっと見てきますね。」 「あ、ああ。気をつけてな。」 先輩に見送られながら人ごみの中に入り込んでいく。 いつもの慣れた駅なのに、 駅の中はすごく混んでいて、進むのに苦労した。 「あの、何かあったんですか?」 近くに居た駅員に聞くと 「車両の事故が発生しまして・・それが大事故で・・ とにかく、今日一杯は電車が出せない状況でして・・」 とかとんでもない事を答えてくれた。 「お、どうだった?」 「なんか大事故が起きたみたいで・・電車が出せないって・・」 「・・・・一本早かったらやばかった訳か。」 「そうですねぇ・・でもどうしましょうかね・・」 「バスは・・出てないんだったな。」 「歩くしかないかなぁ・・はぁ・・」 隣町って言っても、都会で言う程そんなに近くない。 暗さもあって、歩くのは・・かなり辛い。 「・・・家に泊まれ。」 「えぇっ?でもそれだと迷惑掛かりませんか?」 というか、男の人にそれを言われると少しドキっとする。 「夜道で女の子歩かせるってのもアレだしな・・」 「うーん・・そうですねぇ。 じゃあ、お世話になっちゃって良いですか?」 雪希ちゃんも居るし、問題無いかな・・ 「ああ、そうしとけ。」 こういう時は妙に先輩が優しかった。 「あはは、それじゃ、戻りましょうか〜♪」 「ただいま〜」 「またまたお邪魔しま〜す」 「あれっ?進藤さん、どうしたの?」 「実はかくかくしかじかで・・」 「あ、なるほど・・大変だね。うん、何日でもゆっくりしていって。」 雪希ちゃんからも了承を得た。 「それじゃ、ちょっと待っててね、今すぐ進藤さんの分も作るから。」 「あ、それなら私も手伝うね。」 「でも、進藤さんも疲れてると思うし・・・ね? (ほらほらお兄ちゃんも。)」 「あ、ああ、そだな・・雪希に任せても良いんじゃないか?」 な、何か目配せしてるような気が・・ 「うーん・・じゃあ、お言葉に甘えちゃっていい・・?」 「うんうん、沢山くつろいでってね♪」 何故か雪希ちゃんはぱぁっとした笑顔で奥に入っていく。 「・・・はい?」 なんとなく視線を感じた。 「あーいや、なんでもない。」 先輩の方を見ると先輩もそっぽを向いてしまうし。 訳がさっぱりだった。 「はぁ・・それより、どうやって時間潰しましょうか?」 私の分の用意もって言ってたから、 きっとまだ時間がかかるんだろうなぁ・・ 「んー・・・進藤ってゲームとかやるのか?」 「ええ、格ゲーなんか結構強いですよぉ。」 それ以外のゲームはちょっと疎いけど。 「ほぅ・・言うな。」 「そういう先輩はどうなんです? 結構恋愛ゲームとかばっかりやってたりして。」 「な、何を根拠にそんな事を・・」 「男の人ってそういうのが好きなのかなーとか思って。」 クラスの男子なんてそんなのの話ばっかりしてるし。 「お前な・・」 「まぁまぁ、それじゃゲームやりましょうよ。格ゲーで勝負です!」 という口実で先輩の部屋に潜入〜♪ 「あ、おいっ、勝手に部屋入るなっ」 「あははっ、良いじゃないですか減るモノじゃないしっ」 たったったっ・・ がちゃ 「うわー・・・綺麗ですね。まるで毎日女の子が来てるみたい。」 「雪希が毎日掃除してるしな・・」 やっぱり雪希ちゃんは家庭的だなぁ・・ちょっと羨ましい。 「でも、エッチな本の一冊や二冊位はありそうですよねぇ。」 とか言いながら探してみる。 「さ、探すなっ。」 「あははっ、ベッドの下なんかどうかな〜」 「あっ、そこは・・」 見てみると、怪しげな箱が。 「変な箱はっけーんっ♪」 「するなっ!」 「あははっ、中身は何かな〜」 ぱかっ と開けてみると 『ザ・下級生』 とか書いてある謎な本がっ。 「何かしら・・見てみよう♪」 「見るなっ、やめろっ」 何か必死に先輩があがいているけど気にしなかった。 「あ・・・」 下級生な女の子が色々とえちぃ事をしてたりされてたり。 とにかくそんな本だった。 「・・・・だから下級生かぁ。なるほどぉ・・」 「・・・・・・」 何か先輩は呆然としていた。 「あれ?先輩、どうしました?」 「・・あーいや、進藤は気にしないか。そういうの。」 気に・・・シナイ? ―――そんな訳無い。 むしろかなり気にしていた。 第一先輩がそういう趣味があったというのが衝撃だった。 「でも意外ですねぇ、先輩下級生好きなんだぁ?」 下級生好きっていうのもどうかと思ったけど敢えて言うならその言葉がぴったりだと思った。 「あーいや、その・・ほら、現実とこういうのとは違いがだな・・」 なんだかおろおしている。男の人ってこういうものなのかな。 「先輩、どうしたんです?顔赤いですよ?」 「き、気にするな、それよりもゲームだろっ? こ、こんなことしてるばやいじゃだな・・」 「あー、そうですねぇ。すっかり忘れてました。」 本当に忘れてた。 頭が真っ白で、その変わりに窓に写った顔は赤かった。 「そ、それじゃゲームしましょうか。えーっと、コントローラーは・・」 「あっ・・」 二人して同じコントローラーを持ってしまった。 「あ、悪ぃ・・進藤そっち使えよ。」 「は、はい、わかりました・・」 なんだかぼーっとする。 センパイハワタシノコトキニシテルノカナ――― なんでかそんな事が頭に浮かんで、よぎって、留まって。 落ち着かなかった。 「ふぅ・・」 「あ・・あはは、ちょっと調子悪いのかな・・」 「あ、ああ、俺もちょっと実力発揮できなかった・・」 結果は散々だった。 自分の部屋でやってた時は決まって十秒で決着がついたのに、 先輩とすると中々決着つかなかった。 絶妙のタイミングで出る必殺技とか、 一瞬で決着がつくようなスーパーコンボは発動できなくて、 先輩も同じみたいで、だから初心者みたいに下手な勝負になってしまった。 「先輩、もう一回やりましょう。」 「ああ、そうだな・・」 次こそはと意気込んだのに、 どうしてもいつもの調子は出なくて、 手は震えてた。 胸が苦しい・・・ (続く

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